短編シナリオ「小さな三角形」


短編映像シナリオ

「小さな三角形」



登場人物表

篠崎皐月(14)中学生。

中村良樹(14)中学生。皐月の幼馴染。

日比谷麻衣(14)中学生。良樹の彼女。

越塚泉(14)中学生。皐月の幼馴染。皐月と同じクラス。



本文

○学校・廊下(昼)

   篠崎皐月(14)教室の扉の前に立っている。手には漫画雑誌を

持っている。

皐月「よっしー! ジャンプー!」

   中村良樹(14)席から立ち上がり皐月の元へ。

中村「待ってた」

皐月「今週のハンタやばいよ。あのねえ」

中村「ちょっと、ネタバレやめてよ」

   日比谷麻衣(14)が近づき、中村の横へ立つ。

麻衣「なんの話してるの?」

   皐月、漫画を掲げて、

皐月「漫画! ワリカンで回し読みしてるの」

麻衣「へー。私も読んでみたいなぁ」

皐月「いいよいいよー。日比谷さんも興味あるんだ?」

麻衣「んー……っていうか」

   麻衣、中村に身を寄せる。

麻衣「おとといから付き合ってるんだ、私たち。だから、どんなの

読んでるのかな? って思って」

中村「(気まずく)あー、うん、そー。そういう感じ」

   中島の襟首に掴みかかる皐月。

中村「うわっ」

麻衣「きゃ!」

   皐月、中島を力いっぱい前後に揺すりながら

皐月「抜け駆けしやがって! なんで私より先に恋人作ってるんだ

よ! 死ね!」

中村「はあ!?」

   皐月、中島を突き放す。

   皐月、廊下の壁を両手で殴打する。

皐月「やだやだやだ! 私も彼氏欲しいよぉ! なんでよっしーに

は可愛い彼女ができたのに私にできないんだよ!」

中村「じゃあ作れば? 彼氏」

皐月「プラモみたいに言うな! 彼氏作るキットなんかどこにも売

ってないんだよ!」

中村「(笑いながら)コストコならあるかもよ?」

皐月「ねーよ! 行ったこともないけど! 田舎だし!」

中村「俺もないわ。田舎だからな」

皐月「よっしーのせいだ!」

中島「えー、俺のせいなの?」

皐月「郵便ポストが赤いのも空が青いのも全部よっしーのせいだか

ら! もう教室帰るっ!」

   皐月、踵を返して走り去る。

   皐月を見送る麻衣、笑いながら

麻衣「篠崎さんって面白いよねー」

中村「そ。昔っからあんな調子」

   皐月の後ろ姿を微笑んで見守る中村。 

   中村を見、むっとする麻衣。


○学校・教室(昼)

   机に突っ伏す皐月。

   越塚泉(14)、皐月の元へやって来る。二つ折りのテスト答案

   を持っている。

泉 「どうしたの、皐月。テストの点でも悪かった?」

皐月「テストはいつも通り、まあまあ」

   皐月、投げやりに泉へ答案を渡す。

   八五点の皐月の答案。

   泉の表情がこわばり、自分の答案を後ろ手に隠す。

   泉の答案が風圧で捲れる。八十点。

皐月「そんなこたぁいいんだ」

泉 「ふーん……」

   泉、不愉快に皐月をにらみつける。

皐月「よっしーがさあ……」

泉 「また喧嘩したの? どうせ皐月が悪いんだから謝っときなさ

いよ」

皐月「違うもん! 私悪くないし! あのスケコマシ、私より先に

彼女作ってやがんだよ!」

   泉、机に手を置き、身を乗り出す。

泉 「ホントー! 誰! 誰!」

皐月「日比谷さん。よっしーのクラスの。美人の!」

泉 「やだ、超お似合い!」

   泉、手で口を押さえて、皐月に顔を寄せる。

泉 「(声を潜め)ごめん、もしかしてフられた感じ?」

皐月「あ? 誰が?(泉を指さして)泉が?」

泉 「え? だからぁ……」

皐月「意味わかんないんだけど?」

泉 「あぁ、あんたってそういうヤツか……」

   泉、額に手を当てて天を仰ぐ。

   皐月、面倒臭そうに背もたれに体重を預け、頭の後ろで手を

   組む。

皐月「まー、いいや。誰がフられようが私には関係ない。クッソど

うでもいい」

   皐月、軽く首を振り、顔を隠して泣きマネをする。

皐月「それより私はベッコンベッコンなんですよ……高校生になっ

たのに、まだ恋の一つもできないなんて……」

泉 「皐月、わりとモテるのにね」

   皐月、泣きマネを止めて、泉を見る。

皐月「それとこれとは違くない?」

泉 「何が?」

皐月「だからさあ。私から好きになったことがないの」

   皐月、手でついたてを作り、小声で、

皐月「ぶっちゃけ、好きでもない子にモテても、あんまり嬉しくな

くない?」

泉 「うん、まあ、そうだけどね」

   不愉快そうに真顔になる泉。

皐月「……泉、なんか怒ってる?」

泉 「別にい?」

   泉、胸の前で腕を組む。意地悪な冷笑。

泉 「でもさあ、彼女いるなら、今までみたいに仲良くしないほう

がいいんじゃない?」

皐月「なんで?」

泉 「だって私が彼女だったら嫌だもん」

皐月「そういうもん?」

泉 「そういうもんよ。だから皐月は彼氏ができないんじゃないの

お? 女ですらない」

   皐月、目を見開いて硬直する。

   泉、皐月の顔の前で手を振る。

泉 「おーい? 生きてるー?」

皐月「私……もしかして、鈍感……?」

泉 「うん。気がついてなかった? 冗談でしょ?」

   意地悪くニヤつく泉、皐月へ顔を寄せる。

泉 「ま、犬っころがじゃれるようなお子ちゃまのお付き合いには

飽きたってわけよ。中村君、一歩先に大人になっちゃったね?

残念だねえー?」

   チャイムが鳴る。

   泉、黙って席へ戻る。

   皐月、強張った顔のまま凍りついたように座り続けている。


○学校・昇降口(昼)

   皐月、暗い顔で靴のつま先をトントンして履く。

   中村と麻衣、並んで下駄箱にやってくる。

中村「あ、皐月ー。帰りー?」

   皐月、ダッシュで校門に向かう。

中村「はあっ? ちょっと。なんで逃げるんだよ!」

   中村、皐月を追って上履きのまま走り出す。

麻衣「えっ、待って……」

   麻衣、下駄箱と中村を見比べ、急いで靴を履き替える。


○高台(昼)

   皐月、息切れして地面にへたりこむ。

   中村、追いつく中村。

中村「だ、大丈夫?」

   皐月、尻を振り払うように叩く。

皐月「ばっきゃろー! 彼女置いてくるタコがあるかぁ!」

中村「だって皐月が逃げるから」

皐月「ドロケイじゃないんだよ!」

   中村、皐月の肩を叩く。

中村「はいタッチ、捕まえた。で、なんで逃げるの」

   皐月、砂を払って立ち上がる。

皐月「彼女がいる男子とは仲良くしちゃいけないの」

中村「えー。俺は別にそう思わないけど」

皐月「彼女の方は嫌なの! 泉が言ってたもん!」

中村「ああ、泉さんかあ……」

   中村、ポケットに手をつっこみ、斜に構える。

中村「皐月はさあ。俺に彼女ができて、ちょっと惜しい、とか思っ

 てたりしない?」

   皐月、顔をしかめて耳に手を当てる。

皐月「は? なに? よく聞こえなーい。もう一度同じこと言って

くんない?」

中村「あ、いえ……すみません……」

   中村、悄然とうなだれる。

   中村の後方、街灯脇にたたずむ麻衣。

   麻衣、不愉快そうににらみつけている。手には中村の靴を持   

   っている。

皐月「わっ、日比谷さん!?」

麻衣「やっと追いついたよー」

   麻衣はニコニコしながら駆け寄ってくる。

麻衣「置いてっちゃうんだから。もう。酷いよねー」

中村「あ、ごめん……」

麻衣「はい、靴。上履きのまま飛び出すなんて信じらんない」

   麻衣、地面に靴を置く。

   中村、自分の足元を見て。

中村「あっ、本当だ! ありがとう! 日比谷さん!」

   中村、あわてて履き替える。

   麻衣、皐月の手を取る。

麻衣「ねえねえ、仲良くしようよ」

皐月「あ、うん……仲良くしてくれるの?」

麻衣「もちろんだよ! 良樹君の幼馴染だもん」

   麻衣はぎゅっと皐月の手を握り、ぶんぶんと振る。

麻衣「これでお友達だね」

皐月「う、うん。よろしくね」

麻衣「よろしくっ!」

   麻衣、皐月の手を離し、中村の手を引く。

麻衣「じゃあ帰ろう?」

   皐月、ぼんやりとたたずんで、二人の背中を見送る。

   麻衣、優越に満ちた微笑で振り返る。

   中村、振り返る。

中村「えーと……皐月」

   皐月、困り顔で、一度そっぽへ視線をそらす。

皐月「あー。私、寄ってくところあるから。バイバイ」

   皐月、手を振り、踵を返して一目散に走っていく。

○通学路(昼)

   田舎道。6体セットの道祖神が祭られている。

   駆けてきた皐月、息を切らしている。

皐月「あー、こわ。くわばらくわばら」

   皐月、道祖神を拝む。

   拝んだ手を下げて、寂しい顔をする。ため息を一つ。


○高台の階段(昼)

   手をつないで下っていく中村と麻衣。

麻衣「用ってなんだろうねー」

中村「ね。気、使ったのかな……」

麻衣「そんなことしなくてもいいのにね。友達なんだもん」

   麻衣、足を止めて中村の顔を見上げる。

麻衣「今度みんなでカラオケ行かない?」

中村「あ、いいね」

麻衣「私、皐月さんに紹介したい子がいるんだあ」

中村「へー……男子?」

麻衣「うん。その子、けっこうイケメンなの。皐月さん可愛いでし

ょ? 並んだらいいかもーって思って」

中村「うーん……でも、皐月、ガサツだからなぁ。平気で人のケツ

蹴るんだよ。酷くない?」

麻衣「(笑って)酷くないー?」

   中村を睨みつける麻衣。ドスの効いた声で

麻衣「アンタ、私のことバカにしてんの?」

中村「えっ?」

麻衣「最っ低!」

   麻衣、中村の肩をドンと突き飛ばす。

   中村、あわてて後ろ手で手すりにしがみつく。

   麻衣、中村のどてっ腹に蹴りを入れる。

麻衣「ちょっと顔がいいからって調子に乗ってんじゃねーよ! 死

ねよっ! このクズ野郎!」

   麻衣、早足で階段を下りていく。下りながら、

麻衣「アドレス消して! もう話しかけないで! あと死んで!」

   大またで去っていく麻衣。

中村「……こ、こえぇー!」

   泥で汚れた腹を抱えて、その場にへたり込む中村。


○中古ゲームショップ入り口(夕)

   商業施設が並ぶ道路沿い。個人運営の中古ゲームショップ。

   年季があり壁は煤けている。外から見ても店内は薄暗い。

   店の袋を提げた皐月が店から出てくる。

   中村、店に入ろうとしていたところ。

中村「えっ?」

皐月「はあ? なにやってんの」

中村「そっちこそ」

皐月「(袋を掲げて)買い物」

中村「なに買った?」

皐月「それよっかお前、日比谷さん送ってきたの?」

中村「あー……うん、それな」

   中村、扉前から店の横へ移動。皐月、ついていく。

中村「(小声で)フられた」

皐月「は? なにそれ!」

中村「いやあ……あのあとすぐフられた」

皐月「待ってよ。どういうこと? えっ、私のせい?」

中村「(首を振り)いや、よくわからん。なんか勝手にキレて、い

きなりボコられた……」

皐月「なんだそりゃ。九割九分よっしーが悪いんじゃね」

中村「そんなこと言うなよ! めっちゃ怖かったんだぞ! あんな

子じゃないと思ってた……怖かった……」

   中村は俯きがちに小刻みに首を振る。

皐月「えーと。おとといだから(指折り数えて)三日か! 三日! 

ッカー! 三日だって!」

   手を叩いて爆笑をする皐月。中村を両手で指差し、

皐月「ざまみろ! バーカバーカ!」

中村「そんなに笑うなよ! あぁ、せっかく美人と付き合えたのに

……三日か……」

皐月「いよっ、三日男!」

中村「やめろ!」

   中村、耳をふさぐ。

   皐月、中村の肩を叩く。

皐月「(嬉しそうに)残念だったなぁ。ま、元気出せよ」

中村「うん……俺にはまだ早かったみたいだよ……」

   中村、皐月へ頭を下げる。

中村「そういうことで、また遊んでやって下さい」

   皐月、ゲームショップの袋で、中村の頭をぽんぽんと優しく

   叩く。

皐月「しょうがないなぁ。遊んでやるよ。感謝してよね?」

中村「あざっす! マジあざっす!」


○田舎道(夕)

   田んぼまみれの田舎道。

   夕日に照らされて並んで歩く皐月と中村。

中村「実はさあ……皐月に逃げられて、俺、けっこうショックだっ

たんだ。なんていうか、こういうのが普通だと思ってた、って

いうか」

皐月「私も、ちょっと寂しかったかも」

中村「えっ」

   笑いかける皐月。

皐月「小難しい恋愛するよりもさ、こうやって遊んでるほうが楽し

いよね」

中村「そうだな」

   中村、ポケットに手を突っ込み、そわそわしながら、

中村「……よく見ると、皐月もけっこう可愛いよね」

皐月「は? 『けっこう』じゃなくて『すごく』でしょ。喧嘩売っ

てんの?」

中村「(呆れて)あー……はいはい。そうですね」

皐月「よっしーも探せば福山雅治に見える角度があるかもしれない

からな。諦めずにがんばれよ」

中村「おい、バカにしてるだろ!」

皐月「うん! バカにしてる! 三日男!」

中村「やめろー! あーっ、明日学校行くの欝だーっ!」

   対面から買い物鞄を下げたパーカー姿の泉がやってくる。

泉 「ちょっと。こんなところで何バカやってんの?」

皐月「あ、泉! 聞いてよ、こいつフられてやんの!」

中村「(耳を押さえて)あーっ! もうやめてくれーっ!」

   口を押さえて目を白黒させる泉。

泉 「マジ! えっ! マジで!」

   皐月と中村を見比べ、つまらなそうに頷く。

泉 「……あー、そっか。そう」

皐月「え、何が?」

泉 「なんでもない。また明日ねー」

   泉、手を振りながら皐月の横をすり抜ける。

   恨めしく振り返る泉。

   楽しそうな皐月と中村の後姿。

泉 「(小声)私のこともフッたくせに。やんなっちゃうなあ」

   皐月は笑っている。

皐月「さっさと帰ってゲームしよー!」

中村「今日は遊ぶぞ! 皐月ー! 付き合ってくれー!」

皐月「おう、吐くまで付き合ってやんよ!」

   皐月と中村、駆けていく。


end


*****


2016年に書いたみたいです。
なんかの賞に出したやつっぽい。
地元のシナリオ教室に通っていた時のものです。
名前が……そのときはまっているものがはっきりわかる名前やめーーーや……
どうせ周囲の人は知らないし名前まで見てないだろ、
くらいの気持ちでつけているんでしょうね。