すごい本にあった。ちょっと興奮している。
これはBL小説である。濃厚なゲイ描写がたっぷりだ。
しかし、注目すべきはBL小説の特異的な描写を逆手に取った調教サスペンスであるという点だ。
【ネタバレあらすじ】
主人公の家の中はヒステリー持ちの母のせいで荒れている。
母親は何か嫌なことがあると逃げる性質で、主人公はストレスによる精神性の喘息のせいで、長らく田舎に預けられていた。
しかし、祖父祖母の家が火事で全焼してしまい、主人公は家へと帰還した。
主人公の弟は兄のことを溺愛しており、兄の出迎えをする。
兄は弟の言動に気持ち悪さのようなものを感じながらも、否定しきれずにいた。
しかし、過剰になっていくスキンシップに、どうしても嫌悪感がぬぐえない。
そんなとき、主人公の父親が、弟が不在の時、弟の部屋にある写真集を主人公に見せた。
写真集の中身は、主人公と弟の顔に加工されたゲイポルノだった。
そして、ゴミ箱の中には、祖父祖母を殺したと思えるような証拠、日付が合致する駅弁のレシートが残っていた。
逃げようとする主人公は、田舎の大学の気になっていた女友達に助けを借りようとする。
しかし、弟に計画を見抜かれてしまい、やむなく頓挫する。
折れた気持ちのまま、主人公は弟に犯されてしまう。
その翌日、弟は家族に主人公との関係を脅して認めさせる。
母親は主人公を人身御供にして仕事へと逃亡してしまうが、弟に車へ何か仕掛けをされて死んでしまう。
調教の日々に精神がすり減っていく主人公。
父親は黙々と会社と家を行き帰りするが、実は、二人の行為をこっそりと覗いていた。
覗いていたことに気が付いていた弟が暴き、父・兄・弟の三人で交わる。
最後の精神的抵抗を図る主人公に、弟は火事のトラウマを利用して、家に蝋燭を立てて脅す。
蝋燭の火が燃え移ってしまい、主人公を庇うように火傷を負う。
主人公は弟のことを認めるが、弟がほくそ笑んでいるような気がしたけれど、見なかったことにした。
【主要登場人物】
<表>
兄…主人公。女みたいな雰囲気。細くて暗い。弟が不気味な感じ。
弟…お兄ちゃん大好き。ウザいけどよくできた弟。
母…ヒステリー持ち。弟を依怙贔屓する。
父…母の尻に敷かれている。
<裏>
兄…本当は女がダメ。弟との行為に嫌悪感はあるが快感もある。
弟…ゲイのサイコパス。未成年だからか、ヒモ気質あり。
母…ヒステリー持ちだが心が弱く、逃げ癖がある。
父…ゲイ。
【本との出会い】
amazonのおすすめに表示されており、題名と表紙で嫌な予感がしたからレビューを読んでみたら、超気になった。
つい先日電子書籍で購入。一気読み。
【見どころ】
この本は、この出版社以外では「ちょっと…」と断られたらしい。
確かにBL小説としてみると異端であろう。
BL小説では「愛情」が萌えポイントになると捉えている。
この小説の中では、弟からの愛情はある。
しかし、兄は弟をサイコのゲイが俺の体を狙っていて怖いとしかとらえていない。
また、彼らが関係を持つ必然性は家庭環境によって築かれた面があると書かれており、母親のヒステリーだけではなく、父親の性癖が決定打になっていたように思う。父親もまた、兄を性的な目で見ていた。弟については語られていないため不明である。
作中で愛や恋については説明のできないものとして語られていたが、上記の点から彼らの愛着や情欲については説明されており、説明できるものになっている。
また、兄が弟を受け入れる際、弟のたくらみであることを否定して現実から目を背けることをしていた。これにも論理性が働いており、無償の愛情というものは存在しない。もしも彼の無償の愛情を挙げるとするならば、最後まで誰かを信じたり庇おうとする人間性や愚かさかもしれない。
では、弟が兄に無償の愛情を抱いていたかと言えば、やはり家庭環境の異常さと、本人のサイコパス的な気質から見て、愛情がないとは言えない、しかしその愛情は選ばされた面があるのではないか、ということがいえる。
その為、このBL小説には、BL小説の萌えたる「愛情」がかけているのだろう。
だが、この設定や、主人公の調教具合は、BL小説ならではの味があるのではないか。
よってこの小説はBL小説でしかお目にかかれないサスペンスなのだろう。
また、キャラクターの描写も面白い。弟の口調は必見。
すごい。面白い。ゲイ描写に耐えられるサイコ系小説好きさんはぜひ読んでほしい。
【疑問】
この小説、男性が読むとどれくらい怖く気持ち悪く感じるのかが気になる。
女性の浪漫としてのBLではなく、家族には味方がなく、ゲイのサイコが自分を狙っている状況。逃げられない状況。その状況が特殊な家庭環境から来ているというのは感情移入しにくいかもしれないが、かなり怖く思える。
ということで、どなたか男性で読んだ方がいらっしゃったら、ぜひ感想のリンクをください。
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2015年の記事です。